まるいさんちのマイアミ生活記

アメリカに生きる駐在員のおっとさんと妻まるいさんがお送りする、ちんたら楽しいアメリカ生活のすすめ。

ジェネリック医薬品って?

夫さんです。

 

 ここ数年、日本でも「ジェネリック医薬品」という言葉がよく聞かれる様になってきたかと思いますが、アメリカでは先発薬の特許が切れ次第ほぼジェネリックに置き換わるとも言われるほど非常にメジャーな存在です。

 ですが、「じゃあ結局ジェネリックって何なの?」と聞かれたら正直あまりハッキリ分からない、という方も多いのではないでしょうか。

 今回はその辺りをなるべく分かりやすく解説していけたらと思います!

 

 

 

 この記事では、ちまたでよく聞く(気がする)疑問↓を中心に書いてみました。

 

Q1.ジェネリック薬と先発薬って違う成分なの?

Q2.ジェネリック薬はなぜ安いの?粗悪なの?

Q3.ジェネリック薬と先発薬の効き方は違うの?

 

 

 またなるべく公平を期して書きますが、なにぶん難しいトピックのため多分に僕の理解が入る部分もあると思います。もし「ここは間違っている!」と言う指摘等ございましたらコメントお寄せ頂けますと幸いです。 

 

 

 

 

ジェネリック薬と先発薬って違う成分なの? 

薬って何から出来ているの?

 

薬に含まれる成分は非常におおまかに分けると2種類に分類出来ます。

有効成分添加物です。

 

有効成分は、読んで字のごとく、直接病気や症状に効く成分です。

 有名なところで言えば「ボルタレン」と言う薬には「ジクロフェナク」と言う、炎症を抑える成分が有効成分として含まれています。「ロキソニン」と言う薬には「ロキソプロフェン」と言う、同じく炎症を抑える成分が含まれています。

 

 添加物はそれ以外の成分で、その有効成分が長く保管してもダメになってしまわないように助ける成分であったり、消化管で有効成分がより効率よく吸収されるようにする成分であったり、様々です。要は有効成分の働きを助ける成分、ですね。

 

 ちょっと分かりにくいかと思うので、マリオを例にしてみましょう。あのゲームキャラクターで有名なマリオです。

 マリオの本体は、言うまでもなくマリオです。あのおじさんです。

 マリオが無事ゴールにたどり着けばステージはクリア出来るのですが、実際マリオをこのまま全裸で歩かせたらすぐに警察が飛んできてしまいます。そこで服を着せる訳です。そろそろマリオがゲシュタルト崩壊してきました。

 しかしこの服を着たマリオは警察には捕まりませんが一回クリボーに当たっただけでやられてしまいます。そこでスーパーキノコを食べさせ、少し耐久性を上げる訳です。これでステージをクリア出来る可能性が高まりました。

 でもこの状態で10回プレイして10回ともクリア出来るかと言うとそうでも無いです。そこで確実性を高めるためにフラワーを取り、ファイヤーマリオにしてやります。

 

と言う事でここでは一旦、

 

有効成分:マリオ

添加物 :服、スーパーキノコ、フラワー…etc.

 

と考えて頂ければOKです。OKなんでしょうか。

 

ジェネリックと先発は何が違うか 

ではジェネリック医薬品は、先発の薬と何が違うのでしょうか?

 

答えは「添加物が違う」です。

 

 アレ?でも「添加物」って、「有効成分」の働きを助ける成分、でしたよね。マリオで言えば服やスーパーキノコ。添加物が違ったらマリオ、ゴール出来なくなるんじゃない? 

 ここでよくよくマリオの事を思い出してみて下さい。いや、そこまでしっかりとは思い出さなくても良いんですけど、マリオを助けるアイテムって1パターンじゃ無かったですよね。マントマリオになったり、しっぽマリオになったり。ヨッシーに乗る場合もあるかもしれません。そう、違うアイテムを使っても同じ様にゴールにたどり着く事は出来るんです。

 

 ジェネリック医薬品の考え方もこれと同じで、「有効成分が同じで、同じ様に効くならば添加物が異なってもOK」なのです。でもまだ疑問は残ります。

 

「同じ様に効く」って何なの?どうやって証明するの?

この疑問を解決するには、薬が体内でどの様に効いているかを知る必要があります。

 

 

 どうすれば薬は効くのか

 

 さてマリオは(まだ言ってる)ゴールに到達すればステージをクリア出来ますが、医薬品はどうすれば病気に効くのでしょうか。

 マリオと同じです、有効成分が目的の組織にたどり着けば効きます

 

 例えば先ほど挙げたボルタレンという薬では、ジクロフェナクと言う有効成分がCOX-2と言う酵素(炎症を引き起こす「プロスタグランジン」と言う物質を作る酵素です)にたどり着き、その作用を阻害してやれば効くのです。

 

 ただ、薬とマリオで少し違う点があります(少しなのか)。

 

 マリオの場合はマリオ1人がゴールすればそれでクリアですが、薬の場合は薬の量と薬が体の中で循環している時間によって作用の強さが変わります

 

 お酒を飲んだときを思い浮かべると良いかもしれません。

 お酒をちょびっとだけ飲んだ時ってあんまり酔いませんよね。だけど同じお酒なのに、一気に沢山飲むと酔ってしまいます。ここでもうひとつ面白いのは、同じ量、沢山飲んでも長い時間かけてゆっくり飲むとそれほどは酔いません。薬も同じで、量と時間によって作用の強さが変わるのです。

 

 もう一つ重要なポイントがあります。それは、有効成分は血液に乗って作用部位に届けられる、と言う事です。

 

 この2つのポイント、「量と時間によって作用の強さが変わる」「有効成分は血液に乗って作用部位に届けられる」から

 

「血液中の有効成分の濃度推移を比べれば、作用の強さが比べられる」

 

 と言う結論に至ります。これがジェネリック医薬品の考え方の最重要ポイントです。 

 

 

ジェネリック薬はなぜ安いの? 

新しい医薬品開発に必要なステップ

 

「薬の開発に莫大な費用と時間がかかる」と言うのはよく聞きますよね。

 

 なぜでしょうか?

 

 まず、先発の医薬品開発って作用が未知の化合物から始まるんです。その未知の化合物がきちんと効くのかも分かりません。もしかしたら毒性すらあるかもしれません。

 だから、多くの場合順を追って、①動物→②少人数の健康なヒト→③少人数の患者さん→④大人数の患者さんで「効くこと」「安全であること」を確認しなければなりません(②のステップは安全であることのみの確認だったりもします)。

 

 さらにこの「効くこと」「安全であること」を確認する、と言うのが文章で書くと簡単なのですが、例えば「薬で頭痛が治った」事って、どうやって証明しますか?

 

 実は患者さんが自己申告で「薬を飲む前は10段階の7ぐらい痛かったけど薬を飲んだら3ぐらいになった」みたいな感じでアンケートを取る方法が主流なんです。マジか。

 簡単そうに見えますがコレがメチャクチャに難しくて、患者さんによって主観の基準がブレたり、ニセ薬なのに効いたと判断してしまったり(有名なプラシーボ効果ですね)するため、ものすごくハッキリ効かない限り、有効だと証明しづらいんです。

 

 安全であること、の証明も大変です。副作用ってどんなものがあるかも分かりません。直ちに気分が悪くなったり、お腹が痛くなったりするかもしれません。でももしかしたら長期間かけて発ガンするかもしれません。これらのリスクを可能な限り把握して、許容出来るレベルである事を証明しなければなりません。

 

 さらにこうしたヒトを使った試験(臨床試験)って、病院に試験をお願いして、患者さんを集めてやらなければなりません。だからお金もかかりますし失敗したらまたやれば良いや、みたいな事は出来ません。

 

 要するに先発医薬品の開発って「病院や患者さんを多く巻き込み、失敗のリスクを抱えたチャレンジを何度も連続で成功させなければならない」んです。

 

 

ジェネリックの開発に必要なステップ 

 

 ではジェネリックの開発にはどんな試験が必要でしょうか。

前のところで書いたことを思い出して欲しいんですが、薬って「血液中の有効成分の濃度推移を比べれば、作用の強さが比べられる」んでしたよね。

 比較対象が何も無い状態から始める先発薬では効き目とか、安全性を確認しなければならないのに対しジェネリックでは「先発品と同じ作用がある」事を示せばOKです。

 

なので先発の薬と血液中の有効成分の濃度推移が同じである事だけ確認すればOK、なんです。

 

 だから臨床試験も基本、この血液中の有効成分の濃度推移を確認する試験1回で済みます。難しいリスクのある試験を何度も繰り返す必要はありません。なので作るのに費用がかからない=安いんです。

 

いまひとつ分かりにくかったでしょうか。では参りましょう。

 

マリオに例えます。

 

 

先発医薬品がゲームをクリアするまで

「このキャラの名前なんにしよう…そうだマリオが良いかな。マリオはどのくらいジャンプできてどのくらいの早さで走れれば良いんだろうか?ゴールはどこだろう?このマリオでそのゴールまで行けるのかな?アイテムは何使えば良いかな?ちょっとまずは1回テストのステージでプレイしてみよう。よし、上手くいったそしたら2回目もう少し本番に近いステージでプレイして…よし上手く行ったぞ、そしたら本番のステージはどう設計しようか。あぁでも失敗するかもしれない…」

 

ジェネリックがゲームをクリアするまで

「あ、これマリオって言うんすね!ゴールあそこっすね!アイテムこれとこれかな…おっしゃヒアァウィーゴォオオーウ!!」

 

 

ジェネリックと先発薬の効き方は違うの?

ここはそもそも結構難しい話になるのと、人によって考え方が違うと思いますのでご了承下さいませ…。

結論として、僕は「効き方は違い得る」と考えています。

理由を以下に挙げていきます。

 

薬は時間が経てば劣化する

 最初に述べた通り医薬品は「有効成分」と「添加物」から成ります。

まず「有効成分」について、通常医薬品を開発する時には、室温で1年以上、40℃で6ヶ月以上(加速試験)で濃度が大きく変わらない事が求められます。ところがジェネリック薬の場合このうちの「40℃6ケ月で濃度が大きく変わらないこと」しか必要ありません。なので、実際の室温でどのくらい安定かは分からないんです。

 次に「添加物」について。これについて僕の知る限り安定性は特に求められません。でも添加物は有効成分の働きをサポートするもの、です。なのでいくら有効成分が時間が経って残っていても、添加物が劣化していれば薬の性能は十分に発揮されないのです。

 だから先発マリオは1年経っても服を着ているけど、ジェネリックマリオは1年後マリオは元気いっぱいだけど全裸、みたいな事もありえるのです。

 もちろん、逆の可能性もあります。ので、「ジェネリックは必ずしも劣化しやすい」と言う話ではなく、時間が経つと先発とジェネリックの性能が変わっている可能性がある、という話です。

 

血中濃度推移は本当に「同じ」ではない

 なんでもそうですけど、「同じ」ことを証明するのって難しいですよね。人によって「あれは同じでしょう」って言う人もいれば「いやいや別物だよ!」って言う人もいます。

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だいたい同じだけど厳密には違う例

 

 でも、医薬品で「大体同じっしょ!」で判断する訳にはいきません。ではどうするか。これには明確な基準があって

「Cmax、AUCの比の90%信頼区間が「0.80〜1.25」にある。」

 というものです。どういう意味でしょうか。日本語に直しましょう。

 

あ、いややっぱマリオに例えましょう。

 

 下の画像の様な感じで、マリオが大量にゴールになだれこんだとします。

画像作ってみて思ったよりキモくなったんですけどまぁそう言うことにします。

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ゴールに大量になだれこむマリオ


この時「マリオはどのくらいなだれ込みましたか?」と言う質問に対し

 

1.トータル何人なだれ込んだか

2.最大何人同時になだれ込んだか

 

 の2つの考えがあると思います。

薬も同じで、どのくらい体内に入りましたか?と言う時に

 

1.トータルどのくらいの有効成分が血液中を流れたか

2.血液中の有効成分の最大濃度はどれくらいか

 

という2つの考えが出来るのです。

このうちの前者がAUC、後者がCmaxと言う値です。

 

 後半の「比の90%信頼区間が「0.80〜1.25」にある。」と言うのはちょっと難しいです。説明すると「数値が正規分布している場合に先発薬のAUCとCmaxの0.8倍から1.25倍の範囲にジェネリック薬の母数のうち90%が入る」という意味なんですけど、まぁ…その…なんでしょうね。

 

このページが分かりやすかったので参照してください(丸投げ)

bellcurve.jp

 ただ注意として、たまーに「先発とジェネリックのCmaxとAUCの差が80〜125%の範囲内」と認識している方がいますが、それは明確に誤りです。

 

 要するに知っておきたいのは、

1.血中濃度のうち、CmaxとAUCだけを参照する

2.「同じ」と見なす上でのマージンがある

 

 つまり「先発とジェネリックの血中濃度推移は全く同じではない」と言うことです。

 

ここで厄介なのは「どのくらい血中濃度が違うと効果が変わるかは薬によってまちまち」というところなのです。

 だからもし血中濃度が少し変われば効果が大きく変わる薬であっても、多少血中濃度が変わっても効果は変わらない薬であっても、ジェネリックに求められる基準は一緒です。

 したがって前者のような性質の薬の場合、効果は変わってしまう恐れがあるのです。でもこれも先の劣化の話と同じで、ジェネリックは効かないかもしれない!という訳ではなくジェネリックの方がかえって効く場合もあり得ます。


 

(おまけ)

 最後はこむずかしくなっちゃって上手くマリオで例えられなかったのでおまけの話。

 マリオじゃなくてルイージに変わった場合(有効成分が似ているけど別物)は、ジェネリック医薬品ではなく「同種同効薬」あるいは「類似薬」と呼ばれます。ん?類似?

 

ルイージだけにね!

 

最後に

しょうもないダジャレのあとにくそ真面目なことを書きます。

 

 最近、「ジェネリックは先発と効き目が同じ!」「ジェネリックは医療費削減に役立つ!」と、ジェネリックの良い面ばかりが切り取られている事が多い様に思います。

 確かに医療費削減は日本でもアメリカでも国の重要課題です。

 でも、だからといってきちんとした説明をすっ飛ばして「効果は一緒です!証明されています!医療費削減に役立つんです!」と患者さんに言い続けるのは正しいことなんでしょうか。

 それでも「効果が違う気がする」と訴える患者さんに対して「高い薬だから効くって思っちゃうプラセボ効果ですよ」って片付けてしまうのは正しいことなんでしょうか。

 

 難しい話であってもきちんと出来る限り説明して、本当にきちんと納得してもらった上で患者さん自身の意志で薬を選択してもらうようにするのが国の、医療従事者の責任では無いでしょうか。