まるいさんちのマイアミ生活記

アメリカに生きる駐在員のおっとさんと妻まるいさんがお送りする、ちんたら楽しいアメリカ生活のすすめ。

免疫よもやまばなし

夫さんです。こんにちは!

 

最近、ネットに溢れる情報の中で「○○で免疫力アップ!」とか「××でワクチンが作られた!」とかそんな感じのフレーズをしばしば目にします。

 

でもワクチン、抗体、免疫…などなど、そういう言葉って意外にきちんと意味をわかって無い、なんて事は無いでしょうか。

 

今回の記事では、トータル「免疫って何?」って事をおおまかに理解できるよう今一度、広く浅く、ゆるめに整理していけたらと思います。

 

 

 

 なお、僕は医師では無いので明日使えるコロナ対策知識!みたいなのはこの記事には全然書かれて無いです。あくまで巷に溢れる色んな情報を正しく理解するための一助になれば、という立ち位置です。間違い等あればコメント欄にてご指摘頂けるとありがたいです。

 

 

 

免疫には2種類ある

 

免疫には「自然免疫」「適応免疫」の2種類があります。適応免疫は「獲得免疫」とも呼ばれます。非常にざっくりしたイメージとしては

 

・自然免疫

強み:色々な種類の病原体にすぐさま対応できる

弱み:それほど強力ではない

・適応免疫(獲得免疫)

強み:特定の病原体に対し強力に対応

弱み:免疫が出来上がるまで時間がかかる

 

という感じです。それでは、自然免疫、適応免疫がどういう風に働くかを以下説明していきます。

 

自然免疫

 

自然免疫は、冒頭で述べた様に「色々な種類の病原体にすぐさま対応できる、それほど強力ではない」免疫です。

 

まず街にいるお巡りさんを想像してみて下さい。

お巡りさんは、機関銃みたいな強力な武器を持っている訳ではありませんが、街に入ってくる人を幅広くチェックします。

 

ここで重要なポイントが3つあります。

  1. すばやく動く必要があるので、指揮系統を持たない。
  2. 不審者とそうでない人をある程度ざっくりと見分けられる。
  3. 不審者の情報を強力な対応が出来る警察本部に通報する。

 

1.について。まずおまわりさんは不審者を発見したときに「指揮官、不審者です!私はどうしたら良いでしょうか?命令を下さい!」等と言っているヒマはありません。真っ先に不審者の所に駆け寄り、

 

「キミ、そこのキミ、そうそうパーカー着た…うん、ちょっと良いかな?今キミここで何してるの?仕事は?」

 

などと聞かなければなりません。

 

 

余談ですが僕は聞かれた事があります。

 

 

次に2.について、街中入ってくるのは不審者ばかりではありません。一見怪しいけど別に害の無い人もいます。そういう人におまわりさんが攻撃してしまう様な事態はあってはなりません。

 

 

余談ですが僕は無害なのに

 

 

「え、浪人生?あー無職かぁ…頑張ってね(笑)」

 

 

などと言われました。 繰り返しますがこの様な事態はあってはなりません。

 

なので、おまわりさんは「不審者にありがちな特徴」をある程度見分ける事が出来るのです。なんかキョロキョロしてるとか、ちょっと小汚い格好をしているとか、そういう感じでしょうか。それでアタリをつけて、不審者にアタックをしかける訳です。

 

 

ちなみにその当時僕は小汚い格好でキョロキョロしていました。

 

 

 最後に3.も重要なポイントです。おまわりさんは自分たちで対応し切れない場合、警察本部に不審者の情報を伝え、応援を呼びます。この本部の警察にあたる部隊が、次で説明する「適応免疫」です。

 

 

応援までは呼ばれませんでした。よかったです。

 

 この時はたらくおまわりさんにあたる細胞のうち、本部の応援を呼ぶ伝令の役割を果たす細胞群(マクロファージや樹状細胞)を抗原提示細胞と呼びます。*1

 

適応免疫(獲得免疫)

 

さて次に紹介する適応免疫は、自然免疫よりもずっと強力に侵入者を排除します。

ここでの重要なポイントは2つです。

  1. 犯人を極めて正確に判別し、強力な攻撃を仕掛ける。
  2. 出動までに時間がかかる。

 1.に関して。この本部から駆けつけた警察(適応免疫)の対応は、「ちょっとキミ、ここで何してるの?」どころではなく容赦無く犯人を制圧しに来ます。時に飛び道具まで使います。なのであの、機動隊みたいな武装警察官を想像して下さい。

 

 

なんていうか、例えば

 

 

ジャッキーチェンですね

 

 

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いつもママと一緒にジャッキーの映画見てました

 

 えっと何の話でしたっけ、そうそう、要するにこの警察はすごく強力に犯人を攻撃するという話です。なので逆に言えば、ここでは絶対に不審者と一般民間人を間違えるワケにはいきませんよね。ジャッキーばりに関係無い人の車を借りてホバークラフトを切り裂いたりしてはいけないのです(それはレッドブロンクスか)。*2

 

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2回見ました

 

 犯人の誤認を防ぐため、この武装警察官はおまわりさんから、「犯人に極めて特異的な特徴」を教えてもらう必要があります。この特徴が伝わると、警察署の中からその特徴に対して対応できるエキスパートが選ばれます*3*4

 

 ジャッキーチェンのせいで話がそれてしまいましたが、次に2.について。このエキスパート警察官は、民間人と犯人を区別する事には長けていますし犯人制圧の能力は極めて高いです。が、所詮は1回も出動した事の無い新米警察官です。

 装備を整え、犯人との戦いに向けウォーミングアップをし、戦闘態勢に入るまで時間がかかります。どの程度かかるんでしょうか?

 

数日かかります。

 

 これが、風邪をこじらせると数日間はすぐに治らない理由です。

ちなみにこの適応免疫で出動するエキスパート武装警察官を「リンパ球」、新米警察官の事を「ナイーブリンパ球」と呼びます。またこうした出動待ちの武装警察官が多数控えている本部にあたる組織を「リンパ組織」と呼びます。

 

「免疫をつける」って? 

免疫記憶

さて、さっきのパートの最後に気になる事はありませんでしたか?

 

無かったですか?

 

あったでしょう?あったんです!ヘイ!

 

さて、さっきの例では「1回も出動した事の無い新米警察官」が対応したから時間がかかった、という話でしたよね。

 

あれ?じゃあ同じ不審者がまた来た場合はどうなるの?

 

 なんと一度出動経験のある新米警察官はその後犯人の記憶を留めたまま、警察署に留まっているのです。ですので一回目の出動よりも速やかに、強力に犯人を排除するベテラン警察官になります。

 これを免疫記憶と呼びます。またもう一つ、この昔侵入してきた犯人の記憶を留めたベテラン警察官は、犯人を撃退する毎にその攻撃を強力にしていきます。この特性は親和性の成熟、と呼ばれます。

 

こうした「新米警察官がベテラン警察官になる」「犯人を撃退する毎に攻撃を強力にする」ことが、俗に「免疫をつける」と呼ばれる一連の現象です。

 

ワクチン

 さて病原体を撃退する経験を経た新米警察官はベテラン警察官となることは分かりました。これでヒトはどんどん病気に対して強くなっていく事が出来ます。

 

が、しかし。

 

免疫つけるために毎度毎度病気にかかるのってしんどくないですか?

強くなる為に死にかけなければならないみたいな。

 

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死にかけから復活すると強くなると言う設定

 

あるいはもし、一回かかったら死んでしまうリスクのあるような病気だったら?

 

そういう病気の免疫をつけるためにわざわざ死のリスクを冒してまで免疫をつけにいくのはちょっと現実的じゃありません。

 

 

病気にかからずに免疫をつける方法は無いものでしょうか?

 

ここで免疫機能の流れをもう一度おさらいしてみましょう。

 

  1. おまわりさんが不審者を見つける
  2. おまわりさんが警察本部に不審者の情報を伝える
  3. 本部から武装警察官が出動する
  4. 不審者を撃退した武装警察官がベテラン警察官になる

 

でしたよね。ワクチンの仕組みを理解するにあたって、この、2.の不審者の情報を伝える、と言うところをもう少し正確に知る必要があります。

 

不審者の情報を伝える時、もちろん不審者本人を連れてきてその情報全てを伝えるのが一番正確です。でもそういう訳にはいきません。

 

そこで不審者の一番の特徴である顔を伝える、人相書きを作って本部に届けます。

この人相書きにあたるものが、エピトープ(抗原認識部位)と呼ばれるもので、病原体に特徴的な部位です。

 

さて、話を戻しましょう。

 

「病気にかからずに免疫をつけるにはどうしたらいいの?」

 

と言う話でしたよね。答えは簡単です

 

予行演習をすればいいのです。

 

 

要するに警察本部に予め人相書きだけ届けておき、「コイツが来たらやっちゃって下さいよ兄貴!」と伝えておくのです。

そうすると本物の犯人が来る前に、その犯人に対応出来る警察官が予行演習をして準備をしておく事ができますよね。

 

この人相書きにあたるものこそが

 

ワクチン

 

です。

 

ですのでワクチンは通常の薬と異なり、それ自体に病原体を殺す作用はありません。あくまで体の中の免疫細胞たちに予行演習をさせるための擬似的な病原体です。*5

 

したがってワクチンには

  1. ヒトによって効果がまちまち(免疫警察の組織はヒトによって構成が異なる)
  2. 効果を十分に強くするために何度も打つ必要がある場合もある(犯人によっては何度も予行演習を行って対応を強力にしておかなければならない病原体もある)
  3. 副反応が出るリスクもある(予行演習でもある程度ドンパチやるので街に多少の被害が出る可能性もある)

という特性があります。

 

 

免疫細胞たちのプロフィール紹介

よーしみんな!今日はお話聞いてくれてありがとう!

 

ここで免疫で働く

 

イカれた仲間を紹介するぜ!

 

ってことで

 

ここまでで「抗原提示細胞」や「リンパ球」と言った言葉が出てきましたが、もう少しだけ詳しく見ていきましょう。

 

自然免疫で働く細胞

マクロファージ(単球):おまわりさん細胞の代表格。不審者の排除に働くだけでなく、抗原提示細胞としての働きも持ちます。

樹状細胞:マクロファージに似た働きをしますが、こちらはより伝令(抗原提示)に特化した細胞です。

顆粒球:こちらも自然免疫で働きますが抗原提示はしません。細胞内に病原体を攻撃する顆粒を持ち、不審者の排除に特化しています。好酸球、好中球などと言われる細胞はこの顆粒球の一種です。

ナチュラルキラー細胞:この細胞も抗原提示はせず、病原体を攻撃する事に特化しています。顆粒球とは細胞の出来方に違いがあるのですが、ややこしいので名前だけ憶えておきましょう。この細胞は分類としてはリンパ球にあたります。

 

適応免疫で働く細胞

適応免疫で働く以下の細胞はまとめて「リンパ球」と呼ばれます。

ヘルパーT細胞:下記に続くキラーT細胞やB細胞を活性化する、いわば司令塔のような役割を果たします。

キラーT細胞:細胞傷害性T細胞とも呼ばれます。病原体に穴を空けるなどして、直接的な攻撃を仕掛けます。

B細胞:キラーT細胞が肉弾戦を得意とするなら、こちらは遠距離攻撃を得意とする細胞で、抗体を作って病原体を攻撃します。抗体とは言わば誘導ミサイルの様なもので、特定の病原体にくっついて①病原体の動きを封じ込める(中和)②他の免疫細胞の攻撃の標的になるようにマーキングする(オプソニン化)、などの働きをします。

 

 

まとめ

最後まで読んで頂きありがとうございます。

しかしひとつひとつの仕組みは分かっても、全体像がどうなってるか分かりにくい…

 

とお思いのアナタ。

 

任せて下さい。

 

一連の免疫の流れを図にまとめてみました(ドヤンチョプリィイイイ!)

 

 まず例え話を図にするとこんな感じです。

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これをきちんとした用語に置き換えるとこんな感じです。

 

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それから最後に。

われわれの体の中には本来、こうした高度な防御機能が備わっています。

ですが、睡眠不足や栄養不足になると、せっかくの免疫が機能しなくなってしまう恐れがあります。そうなってしまっては元も子もありません。 

 

ので、風邪を引かない、病気にかからないためには!

 

よく食べよく眠る!

楽しく過ごす!

 

 

です。6000字近くひっぱって結論それかーい

 

それではみんなで、楽しく元気にStay Safeしていきましょう。

*1:この不審者にありがちな特徴、にあたるものが病原体関連分子パターン(PAMPs)と呼ばれる、病原体に特徴的な構造です。またおまわりさんはパターン認識受容体(PRRs)によってこのPAMPsを識別します。

*2:ちなみに害の無い一般民間人が不審者と間違って記憶されてしまい、以降その人が入って来る度に攻撃をしかけてしまうのが「アレルギー」です。

*3:ここが少し実際の警察と違うところになるのですが、基本的にこの免疫武装警察官(?)は本当にごく一部の犯人にしか対応出来ない、エキスパート中のエキスパートです。なので、警察署には対応すべき犯人に出会った事がない為「1回も出動した事の無い警察官」が無数に控えています。

 実際の世界でこの体制にしたらさぞかし税金ドロボーとか言われることでしょう。ちなみにこの免疫警察官も同じで、ずーーっと出動の無い警察官はクビになります。また新卒警察官は生まれてからすぐはどんどん採用されます。

 

が、1歳を過ぎた頃から間もなく採用数が減らされてゆき、20歳になる頃には採用は概ね打ち切られます。

*4:さらにここでちょっと恐ろしい事が分かります。要するに、年齢と共にどんどん新米警察官の数は減ってゆく、なのに新しい警察官は入ってこない。すると、高齢になってから人生で出会った事のない侵入者が現れた時に誰一人対応できない、という事態が起こりえるのです。これが高齢者が新しい病原体に対し免疫を獲得しにくい理由のひとつかと思われます。

*5:ワクチンは、菌やウイルスを加熱などにより無毒化して作られる場合が多いです。この時大事なのは、無毒化しつつエピトープを残す事です。こう書くと簡単そうに聞こえますが、エピトープが残っているか、きちんと無毒化できているかを確認するには実際にヒトに投与してみる(臨床試験)しか方法はありません。またヒトによってもワクチンの効き方はまちまちになります。ここがワクチン開発の難しさです。