食べ物で遊ぼう!
こんにちは、夫さんです。
以前の記事でもご紹介した様に、アメリカに来てからと言うものすっかりパン作りにハマっております。が、昨今の情勢により強力粉(Bread Flour)が手に入らない…やはりパン作りは諦めるしか無いのか…。
いやしかし!研究者にとって!
挑戦無き諦めは敗北を意味する!
と言う事で今回は
「All Purpose Flour+???=Bread Flour」
の解を探すべく、キッチンで実験をしてみました。パン作り趣味の方、お子さんの自由研究のネタを探してる方、とある阿呆の生き様を眺めてみたい方…なにとぞお付き合い下さいませ。
割と長いです。
はじめに
ここでは、実験に進むまでの予備知識をざざっと紹介します。
「そんなこたぁ知っとる!」
と言う方はサラッと読み飛ばして下さいませ<(_ _)>
また、アメリカで手に入る小麦粉は概ね
- Bread Flour ≒ 強力粉
- All Purpose Flour ≒ 中力〜準強力粉
- Cake Flour ≒ 薄力粉
と言う感じの様です。ので、日本にお住まいの方は以下の文章をそれに基づいて置き換えてお読み下さいませ<(_ _)>
小麦粉のグレードによる違い
そもそもAll purposeとBread Flourの違いってなんでしょうか?
答えはタンパク質の含量、です。そしてそのタンパク質が「グルテン」と呼ばれる構造を形成して、粘り気を発揮するんですね。
ではグルテンってなんでしょうか?
これは小麦粉に含まれるグルテニン、グリアジンと言う2種類のタンパク質が相互作用して形成した網目状の構造です。この構造により生地に弾力が生まれ、また水分がほどよく保持されるのです。この辺りについては下記のサイトにより詳しく載っていたので良かったら読んでみて下さい。
したがってタンパク質含有率の高いBread Flourではグルテンが多く形成される事になり、おいしいパンに必要な粘り気であったり、しっとりした性質を発揮出来る様になる訳です。
タンパク質ってなに?
「タンパク質」って言葉自体はよく聞きますが、その正体って以外と知らないって事はないでしょうか?
タンパク質は、アミノ酸がたくさん繋がったものです。
アミノ酸とは何かと言うところについてはちょっと化学用語を使わないと説明しづらいので、ここでは割愛させて下さい。下記の協和発酵さんのHPが一番分かりやすかったので、良かったら参考にしてみて下さい。
要するに「アミノ酸」と言うのは1種類のものを指しているワケではないと言う事、それに伴ってアミノ酸から出来ている「タンパク質」には無数の種類があると言う事だけ覚えておいて頂ければと思います。
卵も肉も髪の毛も全部「タンパク質」から出来ているけど、全部全然性質が違う、と言う事を思い浮かべて頂けると イメージしやすいかと思います。
材料の選定
では、冒頭に挙げました「中力粉+???=強力粉」の「???」部分に入りそうな候補を挙げてみます。
エントリーNo1.「プロテイン」
タンパク質が多いのがBread Flourでしょ?そしたら
プロテインを足せばいいじゃない!*1
待って下さい、まだ戻るボタンを押さないで下さい。
そうです、この方法には問題があるのです。冒頭で説明した通り一口にタンパク質と言ってもその種類は様々です。
プロテインに入っているタンパク質と、小麦に入っているタンパク質は全然別ものです。ですが、異なるタンパク質同士であってもゆるく相互作用する場合は結構多いのです。なので、このプロテインに入っているタンパク質がグリアジンとグルテニンのつながりを助けてくれないかな、という狙いです。
エントリーNo2.「タピオカ粉」
昨今「グルテンフリー」の食べ物って結構よく聞きます。
当たり前ですが、麺類なんかでもグルテンはコシを出すのに役立っていますので、グルテンフリーの麺はどうしてもコシが出にくくなってしまいます。
こういう時によく、片栗粉等の、より粘度の高いデンプンが使われます。
デンプンは、「アミロース」と「アミロペクチン」の糖複合体で、水と良く馴染み、また馴染んだ水にとろみをつける性質があります。
なので、分子が長く繋がった、水と馴染みの良い構造であるにも関わらずタンパク質とは別物…と言う事でグルテンフリーでありながら麺にコシを持たせる事が出来る、という仕組みなんですね。
ところがこの片栗粉は高温で粘度を失ってしまう(ブレークダウン)してしまうため、うどんはともかくパンへの使用は不向きと思われます。
次に考えられる、手軽に入手出来るデンプンとしてはコーンスターチですが、こちらはβ化時の粘度が小麦とさほど変わらず、また老化速度も早いためあまり大きな効果は出来ません。
と言う事でこれらを解決するために選んだのが「タピオカ粉」です。タピオカ粉はβ化時の粘度が小麦デンプンの3倍程度あり、また高温でもブレークダウンを起こしません。さらには老化速度も相当遅いので美味しいパンには向いているかなと思った次第です。
ちなみにデンプンごとの性質の違いは下記のリンクが詳しかったのでよろしければ!
http://www.azeron.co.jp/_src/4532902/foodtopics_22_5.pdf
※かなりガチ目です
え、でもタピオカ粉はどうやって手に入れるの?ですって?
キャッサバから精製しました。
エントリーNo3.「ゼラチン」
ゼラチンもタンパク質の一種なのですが、水と非常に強く相互作用して水をゼリー状に固める性質があります。
この時ゼラチンのタンパク質同士がくっついて網目構造を形成しますので、これを利用してグルテンの様にパンに弾力を持たせ、かつ水分リッチにする役割を持たせられないかな?という狙いです。
エントリーNo4.「グルテン」
えっ?
なんて?
グルテンなんてどこで入手するの?
と思われたことでしょう。
ここでもう一度冒頭のパートを思い出して下さい。All purposeやCake flourにもタンパク質は含まれており、Bread Flourよりは少ないながらもグルテンを形成できるのです。と言う事で、All purposeからグルテンだけを抽出してやりましょう。
ここで参考になるのが「麩」の作り方です。
要は、小麦粉を塩、水とよく捏ねた後水で揉み洗いしてやれば良いのです。
ここでは、
All Purpose Flour:40g
水:24g
塩:0.5g
を混ぜて元の生地としました。ただこのレシピだとかなりベチャベチャで捏ねるのが大変だったので、水を20g程度まで減らした方が良いかもしれません。時間がある方はこれをさらに一晩寝かせてオートリーズした方が良いかと思われます。
生地が出来たら、小さいお茶碗に入れて水の中で軽く揉んでやりましょう。
表面がヌルヌルしてくるので、それをそーっと落としていくイメージです。
しばらくもみ洗いしていると、うっすらと血管の様なスジが浮いてきます。
そしたら今度は大きめのボウルに水をはり、その中でさらに揉み洗いしてやります。この段ではある程度強めに揉んでも大丈夫です。
そしたらなんかフガフガした感じ?の黄白色のものが残ります。こいつがグルテンです。
ここまで出来たら水気を絞って、ザルの上に乗せて一晩乾燥してやりましょう。そしたら下の写真の様になります。見た目に分かるかと思いますが、むちゃくちゃ強い膜になり、相当強い力で押しても破れません。
いざ!検証!
生地作り
では、いよいよパンを作ってみましょう!
まずは以下のレシピで土台となる生地を作ります。
All Purpose Flour:100g
水:60g
塩:1g
砂糖:8g
バター:6g
イースト:1.5g
これをよく捏ね、5等分(概ね各34g)した後それぞれに
A.何も無し
B.プロテイン5g
C. タピオカ粉5g
D.ゼラチン0.6g
E.グルテン6g
を入れます。
え?
B.のプロテインを入れたやつがなぜ茶色いか、ですって?
それはね。
うちにあったプロテインが
クッキー&クリーム味だったからだよ
捏ねた感触としては、
- A. ややベチャベチャ。加水率60%でもやはりAll Purpose Flourだとまとまりにくい。
- B. かなりベチャベチャ。おそらくプロテインに入っている砂糖の影響。やはりクッキー&クリーム味である。
- C. ダントツでまとまりやすかった。
- D. A.とそこまで差なし。ただゼラチンが溶けにくく、最後までツブツブ感が残ってしまった。最初にぬるま湯で溶かしてから混ぜれば良かったかも…。
- E. グルテンが全然生地に入っていかない…。まるでパン生地の中で豚皮を捏ねているかの様な気分になる。ただ溶け込んだ後は生地がまとまり、捏ねやすくなった。
またこの段階での各生地の重量は
A.33.2g
B.32.6g
C.38.1g
D.32.0g
E.38.9g
となりました。A.とB.が減っているのは、ベタつきによって手や台に生地がくっついて歩留まりが生じてしまった為と思われます。
発酵
これらの生地を一次発酵に入れます。
オーブンを概ね40℃程度に温め30分程度待ちます。
一次発酵後の生地がこちら
やはりBread Flourで作った生地にくらべゆるいのか、A.はかなりダレています。
ただ元々生地が硬かったC.はもとより、D.のゼラチン生地も結構ダレずに形を留めています。写真だとちょっと分かりにくいですが。これは僕的に驚きの展開です。
おぉ…ゼラチンよ…
内心お前にはあんまり期待していなかったのに…
ちょっとこのままでは扱いづらいので、一旦軽く冷蔵庫で冷やして生地を締めたあと、ガス抜きして丸くまとめ、バットに乗せて二次発酵します。
この段階での重量はそれぞれ以下です。おそらく、一次発酵の過程で水分が飛んで軽くなったものと思われます。
A.31.4g
B.31.4g
C.37.0g
D.30.9g
E.37.8g
そしたらいよいよ最後のステップ。
焼きます。
焼成
二次発酵が終わったら、355°Fで6分、340°Fで7分焼いてやります。
焼き上がりはこちら。
えー待って待って!
なんか
プロテイン入れたやつめっちゃ黒いんですけど
おそらく、これはプロテインに多量の糖とタンパク質が入っていたため、他よりもメイラード反応が強く起きたためと思われます。またゼラチンを入れた生地の表面にポツポツと粒があるのは、溶け残ったゼラチンの粒が焦げたためでしょう。
この時の重さはそれぞれ
A.25.8g
B.25.7g
C.32.6g
D.26.1g
E.32.4g
さて、この一連の重さの記録から、水分がどのくらい失われたかが以下の様に計算できます。とりあえず右端の「水分保持率」の所を見て頂けたらと思います。
一次発酵前 | 一次発酵後 | 焼成後 | 水分保持率 | |||||||
合計 | 水分量 | 固形分量 | 合計 | 水分量 | 固形分量 | 合計 | 水分量 | 固形分量 | ||
何も無し | 33.2 | 11.3 | 21.9 | 31.4 | 9.5 | 21.9 | 25.8 | 3.9 | 21.9 | 34.4% |
プロテイン | 32.6 | 10.2 | 22.4 | 31.4 | 9.0 | 22.4 | 25.7 | 3.3 | 22.4 | 32.6% |
タピオカ粉 | 38.1 | 12.0 | 26.1 | 37.0 | 10.9 | 26.1 | 32.6 | 6.5 | 26.1 | 54.0% |
ゼラチン | 32.0 | 10.8 | 21.2 | 30.9 | 9.7 | 21.2 | 26.1 | 4.9 | 21.2 | 45.2% |
グルテン | 38.9 | 12.0 | 26.9 | 37.8 | 10.9 | 26.9 | 32.4 | 5.5 | 26.9 | 45.9% |
ここで特筆すべきは、やはりタピオカ粉の威力です。なんとグルテンを大きく上回る保水力を発揮しています。それからゼラチン。0.6gと圧倒的に少量しか入れていないにも関わらず、グルテンに負けない保水力を発揮しています。
一方プロテインよ…お前にはガッカリだ…
何も入れんのより水分無くなっとるやんけ。
試食
さぁ、やって参りました。
試食のコーナーです。
見た目がどうあれ、水分量がどうあれ美味しけりゃ良いんです!
と言う事でまだ全員に勝ち目はあると言って良いでしょう。
では参りましょう!
エントリーNo.1 「何も無し」
やはり普段作るBread Flourを使ったパンに比べやや気泡は粗く、ふっくら感少なめです。
が、
アレ?
普通に美味しい…
無理に変なことせんとコレでええやん…と言ってしまいそうなぐらい普通に美味しいです。
例えて言うなら、ビジホの朝ご飯のバイキングでこれが出て来たらうっすらテンションが上がるレベルです。でもパン屋さんに売ってたら「うーん…」って言っちゃうぐらいです。
気泡はやはり普段作っているBread Flour製のパンよりも粗めな印象。高さもちょっと出てないですね。
エントリーNo.2「プロテイン」
さぁ、ここまで色々悪目立ちしてきて、もはや僕の中ではネタ枠になっているプロテイン選手。一体お味の方はどんなもんでしょうか…
パクッ
あ、クッキー&クリームの味だ
なんか水分の違いがどうとか、粘り気がどうとか以前に圧倒的にクッキー&クリーム味ですね。
まぁコレはコレで美味しい。
食感としては、A.の何も入れないよりもパサパサして軽い。甘みも相まって甘食みたいな感じです。ずいぶん高さが出ていますが、おそらく糖分の量が多かったために他よりも発酵が進みやすかったためと思われます。
また表面のメイラード反応が強かった分クラスターがA.よりも分厚くよりザクザク感がありました。
パンと言うより、お菓子っぽい感じですかね。
案外よくやったぞプロテイン!
エントリーNo.3「タピオカ粉」
扱いやすさ、保水力ともにここまで優秀な動きを見せてきたタピオカ粉選手。が…
うーん…
見た目があんまり美味しくなさそう。
原因としては、水分が残り過ぎて生地の温度が上がらなかったため焼き目が付きにくかったのかな、と思います。
それでは試食。
うむ。
悪くない!
しっとり感も、もっちりした食感もA.よりも遥かに上です。
ただ、なんだろう。いわゆるパンっぽい、伸びのあるもっちり感ではなくフォカッチャに近い感じです。なので弾力はあるんですが、ずっしり重いと言うか、ギュっと詰まって歯ごたえが強い感じです。
詰まっている割にところどころかなり大きい気泡が見られます。多分、タピオカ粉と小麦粉で水和性が違い過ぎたために生地内で水分ムラが生じたのが原因かと考えます。
エントリーNo.4「ゼラチン」
僕の中では最も期待してなかった(ゴメンね)ゼラチン選手ですが、発酵後になんとなくプルンとした感じを見せたり、高い保水力を見せたりとトリックスター的な働きをしています。
さて焼き上がり…
おおお案外美味しそう!
溶け残ったゼラチンのツブツブ感も逆に良い感じがします。
そしてお味ですが…
すぅごいしっとりするぅ
ただ、意外な事に歯切れがやたら良いというか…
コシが強くなることを期待してたんですけど、何ならなにも入れないAよりも歯切れが良いです。やっぱりグルテンに比べると網目構造のつながりが弱いのかも。それでいて水分量が多いのでやわらかく感じたのかな?
コレはコレで美味しかったですが、Bread Flour製パンからは遠いかもしれません。
エントリーNo.5「グルテン」
さぁ、ラストです。
一番手間がかかった末っ子の登場です。
見た目はホントに普通にパンですね。
そして注目して頂きたいのは断面。A.よりもキメが細かく、ムラも少ないです。高さも結構キレイに出ていますね。
これは期待大。
それでは頂きます。
・
・
・
ハイ美味しいー!優勝ー!!
これはホントに、Bread Flour使ったのと同じでした。
何ならBread Flour使ったのより美味しく感じたかも。
もっと食べたいと思える美味しさでした。もっちり感、しっとり感…おーコレだコレ求めてた味は。
まとめ
と言う事で、「All Purpose Flour+???=Bread Flour」の解は
- All Purpose Flour+グルテン=Bread Flour
と言う、すごくすごく当たり前な結論に至ってしまいました…。結局二番煎じやないかい。
ただ今回の発見として、
- All Purpose Flour+タピオカ粉=Bread Flour-粘り気感
- All Purpose Flour+ゼラチン=Bread Flour-歯ごたえ+しっとり感
と言う式も得られました。
またおいしさで順位を付けるならば
1位グルテン
2位タピオカ粉
3位ゼラチン
4位何も無し
おやつ:プロテイン
って感じでしょうか。なので例えば薄力粉を使用してグルテン含量の少ないパンを作りたい方なんかはこうしたでんぷん質を混ぜてやるのは一つの手かもしれません。
あとはタピオカ粉以外のでんぷん質、ばれいしょでんぷんやコーンスターチもやってみても面白いかもしれません。あるいはお餅を乾かして粉にして混ぜ込んでも良いかもですね。
それから検証としてはもちろん、比較対象としてBread Flourで作った生地を入れた方が良いです。でも…今Bread Flourめっちゃ貴重品なんだもん…売ってないんだもん…。
と言う事で、えーでは最後に一句。
キッチンは
おうちの中の
研究所
ではみなさん、今日も元気に楽しくStay Safeしましょう。
あんまり捏ねずに作れるパンレシピはこちら。
パンのアレンジ6種類の記事はこちら。
キッチンでの研究記第一弾はこちら。